anemone【恋の苦しみ】


建ち並ぶ家々の間を縫うようにシオンは細い道をずんずんと歩いて行く。

途中でいくつかの道を曲がるシオンには少しの迷いもなかった。


「シオン!ねえ、待って!どこに行くつもりなの?」


そんなシオンの背中をリルは必死に追いかける。

いくら王都の中とはいえ、リルはまだ王都に来たばかり。それもこんな入り組んだところなど把握しているわけもない。

どんちゃん騒ぎが繰り広げられている騒がしい天幕街の声も届かなくなるほど遠くへ来る頃にはもう、既に今自分がどこを歩いているのか分からなくなってしまっていた。


今シオンを見失えば、確実に彷徨うことになる。


それだけはしてはいけない、とリルはシオンの背中を追いかけ続けた。


シオン、とその背中に呼びかけてもシオンは一向に振り返ることはない。

どこか目的があるのか、ずんずんと尽き進んでいくばかりだ。

するとやがてシオンの足がぴたりと止まった。

そこは王都をぐるりと囲んでいる塀の真ん前だった。

高くそびえる塀は一体どれほど高いのかリルには知る由もないが、空まで続いているのではないかと思ってしまうほどで、リルは塀を見上げると足がすくんだ。