rhododendron【危険】


アルトワールから王都までは馬車でおよそ三日かかる。

まだ初日、お昼を食べて出発したばかりだけど随分と色んな景色を見たとリルは思った。

馬車に乗っている時間は長いけれど、その分いろんなものを見られるから退屈はしない。

村から一度も出たことがないリルにとってはどれも新鮮に目に映る。

窓の外を見て目を輝かせるリルに、パンをくれたおじさんは「嬢ちゃん、そんなに外の景色は面白いかい?」と問いかけた。

「ええ、初めてなもので」

すると「そうかい、そうかい」とおじさんは嬉しそうに笑った。

「きっとこれからも見たことのない景色を嬢ちゃんは見られるさ」

「それは楽しみです」

そうやって笑い合っているうちに陽はどんどん西に動いていく。いくつかの停留所を過ぎると、すっかり街はオレンジに染められてしまった。

馬借のおじさんは一度馬車を止めて降りると馬車のランプを灯した。灯りがなければ走れないくらいには暗くなってしまった。

夜も走るのかとパンをくれたおじさんにリルが問うと「それはないね」と言われてしまった。

「宿場町に停車して、また明日の朝に出発するのさ」

ほらここだよ、とおじさんは地図を示した。

おじさんのしわのある指が示したのは「ローダン」という宿場町だった。

「ここで宿を探すのさ。嬢ちゃんなら鍵のついた部屋じゃなきゃ心配なこともあるだろう?」