午後も変わらず忙しかった。

覚えることがいっぱいで、頭がパンクしそうになりそうなのを、なんとかメモに纏める。


「慣れたら難なくこなせるから大丈夫よ」と河合さんは笑いながら言うけれど、その"慣れるまで"が大変なわけで……。

走り書きのぐちゃぐちゃなメモは、後で見やすいようにちゃんと書き直そうと思った。




そんな忙しい中でも先輩が気になり、たまにチラッと見てしまう。

先輩はとても真剣な顔でパソコンに向かっていた。
先輩の周りからは炎が見えるみたいに、物凄い勢いでキーボードを叩いている。


その真剣な姿は昔となんら変わってはいなかった。


――それは、大会の本番前、舞台裏で。

みんなが先に舞台で演奏を披露している他団体を思い思いに聴いている中、先輩だけはひとりトランペットを抱きしめながら、真剣な表情を浮かべて何かをつぶやいていた。

あれはきっと自分と相棒であるトランペットに、気合を入れていたんだろう。

『頑張れ、俺はやれる。必ず上手く吹ける』と。

先輩は曲の中でソロを吹かなければならなかった。
だから、プレッシャーは相当なものだったと思う。


いつもは笑顔で場のムードメーカーな先輩が、滅多に見せない表情。

その先輩の姿がとても格好良くて、声はかけられなかったけれど、心の中で「頑張れ」と叫んでた。




そんな真剣な先輩の姿が、今ここにある。

それが私と飲みに行くために、先輩をそうさせているのだと思ったら、なんだか面白かった。