"――久し振り"


そう言って私の前に立つ男性は、私に向けて笑みを浮かべていた。

さらりとした少し茶色っぽい髪に、二重の目鼻立ちのハッキリとした顔。
手足もすらっと長く、とてもスーツが似合う。

そして私を懐かしそうに見つめるその瞳は、真っ直ぐでとても綺麗。


……がしかし、どうして私をそんな瞳で見つめるのか理解できていなかった。

確かにどこかで会ったことがあると思う。
声も聞いたことがある。

けど、それがどこでなのか、よく覚えていない。


「うーんと……」


そう言いながら、私は固まってしまう。
一生懸命記憶の糸を辿っていくが、一向に思い出せない。

そんな私を見て、目の前の彼から笑みが消えた。
明らかに不機嫌そうな表情に変わっている。

そんな顔されても、思い出せないのだから仕方ない。


「……もしかして覚えてないの?」

彼は眉間に皺を寄せながら、そう聞く。

私はその問いに「はい」とハッキリ言っていいべきか悩んだ。
思い出せない自分が一番悪いんだけど、ハッキリと言って傷付けてしまうのも申し訳ないし。

頭の中で必死に言葉を選んで返す。

「ごめんなさい。頑張って思い出そうとしているんですが、思い出せないんです。あなたとはどこかで会ったことがあるような気はしているんですが……」

そう言うと、彼は何故か舌打ちをした。
その舌打ちに思わずビクッと身体が強張る。


「……ともき」

「え?」


「吉岡智樹(よしおかともき)。この名前でも思い出せない?」