「賢人さん!早く戻ってくださいよ~!」

賢人と呼ばれた男。
左に前髪を流し、金髪で今流行りの髪形である。
このホストクラブでナンバーワンの男だ。
顔立ちは綺麗で女性も羨むほどだ。

若い男に呼ばれて、携帯を白いスーツの上着の内ポケットに戻すと、賢人は席に戻る。

「賢人くん?どこ行ってたの?」

年の頃は40歳手前というところか、少しケバい女が、立っている賢人の太ももを触りながら聞く。

「電話だよ。」

そう答えると、女の横に座る。

女は、賢人の顔に唇を近づけて言う。

「彼女かな?」

「彼女はいないって。」

女は、更に顔を近づけて言う。

「ほんとに?」

賢人は、顔を女に向けて目を見て言う。

「嘘なんて言わないよ。」

女は酒で赤くなっている顔を、余計に赤くして黙る。

さっき賢人に声をかけた若い男が言う。

「そんなに顔を近づけたら恥ずかしくなりますよ~!」

賢人の取り巻きの若手ホストのようだ。

賢人は、女の耳元で何か告げるとまた席を立った。

控え室へと入ると賢人は、電話をかける。

「あ~、もしもし?俺。明日都合悪くなっちまったから、また今度にしてくれる?ああ、また連絡するから…、じゃあね。」

電話を切ると、賢人は独り言を言う。

「めんどくさい女ばっかりだな…」