彼女はキョロキョロと辺りを見回した。

そして、僕に気付くと、あの笑顔で、あの声で、声をかけていた。



「おはよう、佐崎くん」


僕は、呆然と彼女を見ていた。


「あれ、聞こえないのかい、佐崎くーん」


彼女は僕の顔を覗き込む。


「お、はよう」

「あはは、区切るとこおかしいよ」


馬鹿にしたように彼女は僕を見る。

そして、僕は思った。

彼女は自分が死んだことに気づいていないのではないだろうか、と。


「あのさ、言いにくいんだけど...」

「ん?なになに?」


期待に満ちた目。

やめてくれ、言いにくくなるだろ。


「君は...」

「私が?あ、」


「死んでいるんだよ」
「死んでるよってこと?」


彼女は僕の言葉に言葉を重ねた。


「え、あれ」

「佐崎くん、私を馬鹿にしてもらっちゃ困るよ、知ってるよもう死んでることくらい!」


彼女はふふん、と鼻を鳴らして胸を張る。

台詞と行動に違和感があることは否めない。


「じゃあどうしてここにいるんだよ」


僕の言葉に、彼女はあからさまに口を尖らせて不機嫌そうな顔をする。


「佐崎くんが願ったんでしょ?私に会いたいって、思ってくれたんでしょ?」


彼女の言葉に、僕は顔を背ける。


「あはは、佐崎くんは可愛いねぇ、照れてるの?」

「別にそんなんじゃ」


途端に恥ずかしくなる。

まるで彼女に好意を寄せているみたいじゃないか。


「あー、でもね、もう一つ、理由があるんだ」

「え?」

「この世に戻ってきた理由。知りたい?」

「え、いや...」

「まぁ知りたくなくても教えるんだけどね」


彼女はそう言ってくるりと回った。

制服姿で、傷一つない。

まるで生きているような彼女のスカートは翻る。


「私の家族に、笑っててほしいんだよね」


その声は、やけに鮮明に聞こえた。

彼女の透き通る、水の流れのような声が、僕の鼓膜を震わせた。