梅雨に入った六月、今日も冷たい雨が降りそそぐ。
とある山の奥深く、少し開けたところにある墓石の前で一人の男が赤い番傘をさして立っていた。

男は何をするでもなくただじっと墓石を見つめ、時折さした番傘をくるくると回した。
暫らくすると男は目をつむり真一文字に結んでいた口を開いた。
「早いものです、百年というのは。あの時、あなたに出会わなければ私は今日ここに来ることは無かったでしょう。」

そう呟くと男の瞳が微かに揺らぎ、声は静かに雨の中に消えていった。