旅立ちの朝、私は他の二人との待ち合わせ場所である中央広場に立っている。
母があしらってくれた革の胸当てとブ-ツを身につけ、父の形見である鋼の大険を背中にさして私は冒険の一歩を踏み出す。

『おまたせですわ。
ああ…ア-リッヒさん素敵な装備ですね』

ミゼリアが大きな鞄を両手で抱えながらやって来た。

『凄い荷物だね。
それ、もしかして調合薬なの?』

ミゼリアは様々な材料を駆使して便利な薬や毒をいくつも調合できる優秀な〔調合師〕だ。
回復薬から攻撃用の猛毒まで、彼女のレシピは無数に存在する。

『あ、いえ、これほとんどお菓子です、はい』

紹介文が台無しだよ!

『完全に遠足気分じゃないか…』

私が溜め息を吐きながら呆れていると、突然背後から何かが肩にのし掛かってきた。

『え!?トキユメ…って酒臭ぁっ!!』

それはアルコールの吐息を漂わせたトキユメだった。

『くっ…頭が痛い…!
もしかして魔王の呪いか…?』

トキユメは地面に片膝をつき額に手を添えた。

『二日酔いだろ馬鹿…』

彼女のことだから、どうせ朝まで飲んでたんだろう…と、私は苦笑いを浮かべた。

『薬がありますわよ』

ミゼリアが鞄を探り、香草のようなものを取り出しトキユメに渡した。

『悪ぃなミゼリア、助かるぜ。
この草、耳に突っ込めばいいんだっけ?』

『いえ、お尻にです。何なら私が突っ込んで差し上げますわ』

『どうせならア-リッヒに突っ込んでもらいたいわ』

『あら、ならその後、私のにも突っ込んで頂けますか?』


ねぇ、お前ら…おもくそビンタしていい?




『はい!注目!!』

私は仕切り直しに声を張り、地図をベンチに広げた。
トキユメとミゼリアが私を挟むようにして顔を覗かせる。

『ここが私たちの現在地のバルデ帝国の首都ね。
そして…』

私は地図を指でなぞりながら、次の目的地である〔ソルトナ〕を指した。

『ソルトナって、辺境の小さい村だろ?
どうせなら、こっちのカイリラにしようぜ』

トキユメが指差しながら言った。

『うん、確かに卒業生のほとんどがカイリラに向かったみたいだもんね。
大きな都市だし情報も多いだろうから』

人間は長きに渡り魔王軍と戦禍を交えているが、未だに魔王の根城が何処に在るのかを掴めていないのだ。

『じゃあさ、私たちは皆とは反対側から情報を集めた方が良いと思うんだ』

私のその言葉に、トキユメとミゼリアは目を合わせた。

『流石、リーダーですね。
私も賛成です』

ミゼリアがそう言うと、トキユメも納得したように頷いた。

『ありがとう。
ソルトナまで徒歩で二日くらいはかかるから、早速出発しようか』

地図をしまいながら二人へと目をやると、何やら様子がおかしい。

『徒歩…?』

トキユメが言う。

『馬車じゃなくて…?』

ミゼリアも言った。

『は…?いやいや!馬車とか無理でしょ!
いくら費用がかかると思ってんの!?』

予想だにしなかった二人の発言に私は顎が外れかけた。

『マジかよ~!
俺ら魔王討伐隊なんだからプライベートバッシャくらい学校から出るのかと思ってたわ~!』

プライベートバッシャ?何それ。

『私もですわ…。徒歩ならこんなに荷物持って来なかったのに…。
プライベートバッシャ無しでどうやってこの先…』

『いや、あの…プライベートバッシャって?』

私の問いかけに、二人は同時に此方を見た。

『自分専用馬車。
知らない?』


……普通に、専用の馬車って言えよ。
てか、何で私だけ知らないんだよ。