約30年前…。
平和だったエデンノア大陸に、突如異世界より魔王の軍勢が侵攻してきた。
強靭なモンスターを従える魔王軍によって幾つもの国が滅ぼされる中、大陸一の強国であるバルデ帝国は魔王討伐の為、勇者を集める専門の大学を設立した…。

そして現代、今日をもってしてバルデ帝国大学魔王討伐科の第1期生、36名が卒業する…。






澄んだ空も祝ってくれているような春の門出、私は4年間お世話になった校舎を見上げた。

『どうしたんですかア-リッヒさん。
やっぱり名残惜しいですか?』

名を呼ばれ振り返ると、親友のミゼリアが笑顔で立っていた。
可愛らしいヒラヒラした服が似合う人形のような女性だ。

『うん、まあね…。
いざ卒業ってなると何か寂しいものがあるかなぁ』

私がそう言うと、ミゼリアは私のマネをするように校舎へと視線をやるとポツリと呟いた。

『何か…お腹空きましたね』

それ、このタイミングで言うことか?




『そういえば、トキユメは?』

私にはもう1人、親友がいる。

『ああ、向こうで下級生たちに囲まれてましたよ。
もちろん、女子に…』

『やっぱりか。
トキユメは女子なのに女子にモテるからね~』

綺麗で背も高く運動神経抜群のトキユメは、男子はもとより女子にもかなりの人気があった。


『まったくですよ。
私なんて男性にしかモテないのに』

こいつ、サラッと腹立つな。



『悪ぃ悪ぃ、少し遅くなった』

噂をすれば何とやら。
トキユメが瓶を両脇に抱えながらやって来た。

『それは何ですか?』

ミゼリアが声をかける。


『ん、これ?酒。
やっぱ持つべきものは酒をくれる可愛い後輩だな。
これにツマミの落花生でもあれば最高なんだけどな-』

オッサンじゃね-か。


『あ-落花生いいですね。
今なら殻だけでも食べれそうです』

ミゼリア、あんたは飢えすぎ。



『もう…せっかくの卒業式なのに、これだといつもと同じノリじゃない。
ここは1つ、卒業祝いに何か豪華なやつを食べに行こうか?』

私がそう言うと、二人の表情が明るくなった(特にミゼリア)。

『さんせ-!酒飲みたい酒!』

『じゃあ、今日は特別な日ですから…いつものピザ屋に行きましょうか』

『特別って、結局いつものとこ行くんかい!』




私たち三人はこの大学の魔王討伐科という同じ道で出会い、そして親友となった。
そして明日からは、この世界を侵略しようと企む魔王を倒す為に共に冒険し、共に背中を任せる戦友となる。

どんな試練や苦難に襲われようとも、この三人なら必ず乗り越えられる…!

そう、私たちの絆は……

『ところでさ』

まだ私のカッコいい"語り"の途中だというのに、トキユメが話しかけてきた。

『お前ら、進路ど-すんの?
就職の内定とか貰えた?』


は?

この酔っぱらいは一体何を言ってるの?


『いやっ…トキユメ!?…は!?え!?
おぃいいいいい!!』

上手く言葉にならない私の魂のツッコミが春の澄んだ空に轟いた。