すると、隣の五十嵐さんが意地悪く鼻先でフンと笑い

「……また、ナンパ待ちしてたのか?」

と言うものだから、ムカッときて声にならない声を出して立ち上がった。

はぁ⁈

「突然、なんなの?失礼じゃない。またって何よ…ナンパ待ちなんてしてないし、彼らは私の職場の人で偶然会ったから挨拶してただけよ…気分悪い。私、帰る…」

最後の方は志乃に話しかけて、五十嵐さんに背を向けて出口に向かって歩き出していた。

背後で、志乃がちょっとと慌てて呼び止める声がするけど、立ち止まるつもりはない。

本当になんなの?

またって、いつナンパ待ちしてたのよ。

ムカつく…

あームカつく…

例え、ナンパ待ちしてたって五十嵐さんに関係ないじゃん…

一体なんなのよ…

重層のドアを開け外に出ると、先ほどよりも強くなってきた風と生暖かい空気、そして頬に当たる水滴に風見さんの言葉が思い出される。

あっ、台風が近づいてきてるんだ…

空は、どんよりとした厚い雲に覆わて真っ暗で、ポツポツと雨が降り出し始めたところらしい。

「今日は、最悪。まっすぐ家に帰ればよかったわ」

思わずつぶやき、顔をしかめて歩き出すと背後から肩を掴まれる。