「さて、ではまず説明願おうか」

 滝本さんが社長をつとめる調査会社について、ビルの二階、その部屋に眠っている二人を運び込んだら、滝本さんが私達を振り返って言った。

 ふう、とため息をはいて、桑谷さんがネクタイをむしりとる。私は桑谷さんの隣で会釈をする、この事務所の縁の下の力持ちである湯浅女史に挨拶を返していた。

「お久しぶりですね」

「はい、お元気でしたか?」

 私と湯浅女史はにこやかに話す。

 この人がいないとこの事務所は潰れていた、そう聞いたことが何回もある、事務員の湯浅さん。50代になるかならないか、という年齢で、沈着冷静の素晴らしく安定した人だ。この人は怒れる滝本さんにも怯えないし、怒れる桑谷さんに意見を言える、多分唯一の女性だろう。

 ジャケットも脱いで腕まくりをした桑谷さんが、話し出す。

「出版社のパーティーに出ていた。帰ろうとしたところでまりが蜘蛛という何でも屋と鉢合わせをしたらしい。手刀で気絶させられた妻を発見して起こしたら、彼女が───────」

 ここでその場の全員が私を見た。にっこりと微笑むべきかを考えて、結局笑顔を見せるのはやめておいた。今晩はもう十分疲れてるのよ。

「彼女が、是非仕返しをしたいと言ったので───────」

 異議有り。私はパッと手をあげながら桑谷さんの言葉を遮った。