古くから天下の台所と呼ばれ、商業の街として名高い大阪府下に小さくも店を構える

喫茶、妃翠(ヒスイ)。


緩やかな時間が流れるアンティーク調の店内に、似つかわしくない声が響く。



「隗赫鰍掩っ!!今日こそ貸金業法違反で逮捕してやるからな!」



とあるお客を指差しながら怒鳴るこの男―――藹革殊犂(アイカワ コトリ)は、東京から1年前、西広(セイコウ)警察署、生活安全課へ赴任して来た警察官である。



「毎日毎日、よう頑張るなぁー。愛くるしくて可愛ええ可愛ええ、ことりちゃんは。」



「その呼び方はやめろ。ちゃん付けもするな、この下僕が。」


「おぉーこわっ。」



名前をもじって、『ことりちゃん』と小バカにする男―――淦鉞涓畤壟(カンエツ ケンシロウ)は、殊犂の怒りのこもった目線に震える仕草をするも顔は笑っており、言葉とは裏腹に全く怖がってはいない。



「藹革はん。被害届も出てへんのに、逮捕は出来ひんでしょう。そんくらいも分かれへんのですか?」



殊犂から名指しされるも冷静に返す男―――隗赫鰍掩(カワシゼキ シュウエン)は、この大阪で貸金業を営む、絆栄(バンエイ)商事に勤めている。