「センセー、復活してたね」


半袖だった制服が長袖に変わり、夏の暑さが思い出に変わり、秋の香りが強くなり始めた頃。

休んでいた美坂先生が復帰した。

体育祭が始まる1週間前には、安堂くんも学校に来て、今までと変わらぬ雰囲気を零していた。

変わっていたのは、あたしとの関係だけ。

廊下を歩いていても目が合わない。

声さえ聞けない。話も出来ない。

分かっていたことだけど、目の当たりにして、ようやく理解した。

これが、一つの恋が終わったということ。

じわじわと侵食する痛みを感じながら、今日も昼休み、桜田くんと渡り廊下から空を仰いでいた。


「そうだね。学校中が凄い騒ぎ。美坂先生、人気だもんね。……復帰してからの美坂先生、凄く綺麗になってた…」


これは、誰もがみんな口にしている事実だった。

前から綺麗だったけど、前より一層。

それはまるで、恋をすると綺麗になっちゃうって逸話みたいに。

それを噂している人もいた。

美坂先生に彼氏が出来たんだって嘆いている人が多かった。


「…うまく行ってるんだろうね。元サヤだもん。収まるところに収まったんだよ。うん」


誰に言うでもない、独り言。

この事情を知っているのは桜田くんしかいなかったから。

桜田くんの前では、本当の自分でいられる。


「…そーだね」


桜田くんは空を見上げながら、ポツリと言った。


「…もう、10月も半分か」


もう、1年なんだ。

あたしがベランダに閉じ込められてから。

あっという間に時が経った。

今はとても辛いけど、でもそれでも、1年前、知り合わなければよかったとは思わない。

辛い恋だったけど、知れて良かった。

人を本気で好きだって思う気持ち。

憎くて、苦しくて、どうかなってしまいそうだったけど、それでも。

時間が少し経った今、幸せを願おうと努力できてる。


「…高校生活もあと半年かぁ~。なんか寂しいなー」

「そうだねー…」


二人で、渡り廊下の桟に腕を乗せ、空を見上げた。

空はだんだんと青みを薄め始めて、秋空へと衣替え。

あとは模試と勉強三昧の日々。

だけどそれでも大切な日々。

高校生でいられる限り、瞳に映すことができるから。

…なんて。

こんなこと言ってる間は、諦めるなんて無理だよね。

でも、それでも、この空間に染まっていたいんだ。

かけがえないのない日々なんだ。