放課後。

安堂くんの好きなお菓子を持って、家に行くと玄関先で抱きしめられた。

あたしは戸惑って、でもきちんと、


『ヤキモチを妬きました』

『ちょっとだけ気にしちゃいました』

『…ごめんなさい』


…と、頭を下げた。

すると、抱きしめられていた腕がするりと離れて、見つめ合った。

その顔は、少しだけ眉間にしわが寄って、怒ったような泣いたような、そんな顔をしていた。


『…やだよ。許さないよ』


安堂くんが辛そうな顔でそう言うからあたしは慌てて言葉を足そうとした。

そしたらその瞬間には、頬を掴まれて身動きが取れなくなっていた。

玄関先。

壁に押し付けられて、

す、凄いチューを………


(いち、にぃ、さん、しー、ごー……ろく、なな…!)


「何の数?」

「!!!」


あの日のキスが強烈すぎて、あたしは思い出しては数を数えていた。

ナッチの声にハッとして、顔を上げた。


「なななななんでも…っ」

「分かった!安堂くんと食べようと思ってる食べ物の数でしょ!」


ナッチは人の話を聞かずに人差し指を立たせた。


「くそぉー…!高校最後の文化祭くらいは彼氏と回ろうと思ってたのに~~っ」


そう、今日は文化祭。

高校最後の文化祭だ。


「それにしても生憎の天気よねー。文化祭、6月にあるんだもん。毎年雨ばっか」


ナッチは怪訝そうに空を見上げた。


「……で、知枝里はもう、安堂くんからチケット、もらってるんでしょ?」


ニヤニヤとした顔があたしを見つめる。


「チケット…?」


何のことか分からず、首を傾げると、ナッチが目を見開いた。


「……え、8組のお化け屋敷のチケットだよ!? 倍率高すぎてなべっちからも貰えないっていうからあたしが今、ヤスに並ばせてる、幻の、あの!」