「で、昨日は何して華月を怒らせたんだよ?」

朝のやり取りをすっかり忘れていたらしい拓真を、生徒玄関で待ち伏せし、確保。
並んで歩く帰り道、マフラーを口元に引き寄せ、面倒くさそうに拓真が聞く。

「なんてことはないよ。バレンタインは一緒に手作りしようって頼んだの。嫌がってたけど、仕方ないって、そこまではよかったんだけど…」

ちらりと拓真の顔を仰ぎ見れば、いかにも興味なさそうな顔で「で?」と見下ろされた。
ふーんだ。
私、知ってるんだからね。

たっくんがはーちゃんのこと好きなの。

「はーちゃんも好きな人にあげたら?って言ったら急に不機嫌になって、あんたはちょっと自重しなさいよ!だってー。」

ひどくない?と賛同を期待したけど、拓真の目は冷たい。
ふーんだ。
わかってますよー。
たっくんは、私には厳しいよねー。

拓真のために華月をけしかけたつもりだったけど、ダメだった。華月はまだ、人の恋愛にも自分のそれにもさほどの興味はないらしい。
恋多き私と言えば、今は養護教諭の橘先生に夢中なのだけど。

私としては話は終わり、だと思っていたのだけど、拓真はそうではなかったらしい。「…ってことは、さ…」とボソボソと呟いた。

「え?なぁに?」

「だから、華月は、その…気になるようなヤツはいないってことだよな?」

一気に言い終えた拓真の頬がうっすら赤い気がする。
…口は悪いし、愛想もない拓真が照れているなんて!
滅多に見られない拓真の表情に、私は面白くなってきて、意地悪心が頭をもたげる。

「はーちゃんのことが気になる人はいるみたいだけどね(ここに)。」

「っ…!」

動揺を隠せない拓真に、胸の中で毒づいた。
はっきりすればいいのに。男なんだから。