彼が越えられなかった2回目の春がきた。


そよ風に桜の花びらが新入生たちの門出を祝福するように宙を舞っていた。

真新しい制服を着て今日からはじまる高校生活にみんな期待と不安をかかえる中、私は門の前で止まった。


〝誠凌(せいりょう)高等学校〟と書かれた文字。


『絶対に同じ高校に行くからね』と宣言してから2年。やっとこの門をくぐることができるのにキミはここにいない。

同じ学校に通って同じ制服を着て、手を繋いで毎日一緒に帰ろうと夢をみていたあの頃。

時間は1分1秒過ぎていくのに、私の心はあの日のまま。


「――波瑠(はる)!もう待っててって言ったのに先に行っちゃうんだから」

息を切らせているのは私の親友。


「もしかしてあの坂道を走ってきたの?」

「はぁ……そうだよっ……!バス停で待っててって言ったのに置いていくなんてひどい」

「はは、ごめんごめん」


大丈夫。私はちゃんと笑えてる。


「早くクラス表見にいこ?波瑠と同じクラスになれますようにって神社に願掛けしに行ったからからきっと大丈夫なはず!」

「願掛け?もしかしてあのボロい神社?」

「あ!今バカにしたでしょ!あそこで買った合格祈願があったからお互いに合格できたんだからね」

「はいはい。ほらクラス表見にいくんでしょ?」

「待ってよ。波瑠~」


波瑠という名前も今は好きじゃない。

彼を閉じこめた冬も、彼が待ち望んだ春も、すべてのものが嫌いになった。

だから彼がいないのにこうして生きている私も嫌い。