《1》


あ、今日も笑ってる――。


放課後の教室で帰る準備をしていたわたしは、ふと、ドアのむこうを見て手を止めた。

熟したオレンジ色の西日が射しこむ廊下。
楽しげに談笑する男子グループの中に、ひときわ目を引く“彼”がいる。

校内で時々見かけるその顔は、いつだって笑顔だ。


「何見てんの? 真緒(まお)」


友人の千歳(ちとせ)に突然話しかけられ、わたしは肩をびくっと震わせた。


「いや、別に。夕日がまぶしいなあと思って」

「ほんとは花江くんに見とれてたんじゃないの?」

「ちがうよ」


すぐさま否定して、机の上のものを鞄にしまい始めた。そんなわたしの隣で千歳が、しみじみとつぶやく。


「でも、花江くんってかっこいいよね」


語尾の「ね」を強調していたから、思わずうなずいてしまった。