『京美さん、あなたこれ以上鷹ノ宮家の名に泥を塗るつもりなの?』
電話越しに聞こえた母親の言葉に京美は呆然とした。
『もともと武雄や美沙里と比べて出来が悪いっていうのに。あなたがその高校に行ったとき私がどれだけ恥ずかしかったかわかる?』
母親の言葉は止まらない。
『苛められるのもあなたが弱いのが悪いんでしょう。とりあえず絶対に中退なんてさせないわ。じゃあね。』
ガチャリ、と受話器を置く音がして一方的に電話が切れた。
京美は何も言わなかった。言えなかった。
京美は私立の蛍坂高校に通っている。
そこで、社長の娘ということを同級生から妬まれ学校で苛められていた。
最初は無視程度だったが段々とエスカレートし、プールに沈められ死にかけたこともある。
不幸か幸いか寮は一人部屋だったから京美はこの1週間部屋に篭もっていた。
もともとこの学校に通いたかったわけではない。京美は兄の武雄や姉の美沙里が通った公立を受験し、落ちたのだ。
だからこそ高い授業料を払わせてしまってる母親に心配をかけたくなくて相談することなどできなかった。
先生もいじめについて知っていて注意してくれているのだがエスカレートするばかりで、ほとほと困ったようで親に連絡がいったのだ。
そしてそれを聞いた母親からかかってきた電話がこれだ。
心の中で母親なら助けてくれるという思いがあったのだろう。
京美は絶望した。
もうどうにでもなれ、と思った。
死にたかった。でも死ぬのは怖かった。
その時部屋の呼び鈴がなった。
いじめっ子達がここまで来たのかもしれない。
インターホンを覗くと見知った顔が覗いた。
ああ、あの人だ!!
京美は喜んでドアを開けた。
ドアの隙間から銀色に光るものが京美に振り下ろされた。不思議と痛みは感じなかった。
私、どうしたんだろ?そう思った直後京美の意識は消えた。