マンションのエントランスで千葉さんの車を見送った。

平日の夜に遠出したのは初めてだった。

彼の声が眠りにつくまで耳の奥に残っていることを願いながら

ザッとシャワーを浴びた。

私の両親は香港に赴任中なので

一人留守を預っていた。

寂しさをまぎらわすよう母からペットのハムスターを買い与えられた。

私は夜行性のハムスターが夜中にカサカサと音を立てることに慣れてきた。

初めは気になってベッドで寝返りばかりしつつ

次第に自分の他に誰かがいてくれる安心感のようなものが湧いて

小さなハムスターながらだんだんと自分にとって大きな存在になり

今では音がしないと安眠できなくなりつつだ。

「クック、今日は遅くなっちゃった。おやすみ。」

ケージの中をゴソゴソ動くハムスターにひと声かけてケットにもぐった。

帰り際に交わした言葉を思い出した。

「瑠花。」

「はい。」

「話したことを思い出して夢の中で溺れないように。」

「大丈夫です。今日はありがとうございました。」

「おやすみ。いい夢を。」

「おやすみなさい。お気をつけて。」

千葉さんの最後の声をもう一度思い出して酔いしれたい。

「いい夢を。」

目を閉じた。

ハムスターのクックが歩き回るカサカサという音を耳にして。