「すいません寝ちゃった」
突然目が覚める。
「いいんですよ。そのままお休みになっていただいて」
あわてて私は頬を叩く、偉大な作家先生を目の前にして恥ずかしい。
黒ぶちの丸眼鏡に曲がった背筋、いかにも作家先生と言った出で立ちだ。
薄暗い木造の屋敷は夕方になるにつれ暖炉の明かりが目立ってくる。
「そういうわけにはいきませんよ。本物の大天才「つねいつぐと」せんせいを目の前にして、緊張して眠くなってしまったようです。」
つねいつぐとはにっこり笑い、
「面白い人だ。」とだけ言った。
思いっきり伸びをする。しかし眠気は全く覚めず…私は先生に尋ねてみた。
「何か、眠気覚ましの方法って知りません?」
何十個もの小説を書いているのだから、一つや二つは眠気覚ましの方法を知っているのかもしれない。
「そうですねぇ...」少し考え込んでいる。
「私はやったことがないんだけれどもね『ニッパー』って分りますか。」
「あぁ。あのペンチみたいな、針金なんかを切る」
僕は右手で針金を切る動作をする。
「あれでアキレス腱を切るといいと、聞いたことがありますよ。」
え?
「それは...いいかもしれませんけど..でも、それは目が覚めるんじゃなくて、それどころじゃなくなるってことですよね...」
「すいませんねぇーーお役に立てなくて!」
「いやいや、全然。こんな時に眠くなる僕がいけないんですから。」
僕は彼が作業に戻ると同時にあくびをする。
「お忙しいから全然寝ていらっしゃらないんでしょう。」
どうやらあくびがバレていたようだ。
「そうだ良かったら奥の応接室のソファで横になられるといい後で毛布を持ってきましょう。」
「いえいえ。全然大丈夫です。大丈夫ですよぉー」
僕は頬を叩き、眠気を覚まさせる。