さて、ここで少し時を遡る。

大神秋人と熊野吾朗が、キャッスルホテルのビア・ホールで旧交を暖めていた頃___

その15階上のダブル・ルームでは、一組の男女の終焉ドラマが繰り広げられていた。

「そそ、そんな……どういうコト?僕は君と一緒になるために準備を進めて来たのに……」

ベッドサイドに腰かけて、形の良い長い脚を綺麗に組んだその女は、美しく描かれた眉を少しだけしかめた。

「意味分かんない」

「た、頼むよ。妻には離婚届にハンコも押させて、今更…後戻り出来ないんだ。…君を愛してる!誰よりも…だからっ…⁉」

女は心底面倒だという様子で立ち上がり、縋る男を凪ぎ払う。

「私、別にそんなの頼んでませんケド。
ねえ?ヤマモト課長…補佐?」

女は両手を床に突いて項垂れた男を、冷めた目で見下ろした。

「…き、君のせいだ…君さえ現れなければ…こんな事には…」