アガペー星での成人式。
老師が言った。
「そろそろお前たちは地球に行くことができる。地球へ行く時、お前たちはどんな親元に行くか選ぶことができる。」
地球へ行くこと、それはアガペー星の住人の夢と憧れ。
良くない噂も聞くけれど、希望の道。
「普通は愛し合う夫婦の中からどこへ行くか決めるが、あえてどこにどうやって生まれるかを選ばないという方法もある。」
と、老師は付け加えた。
「決めないとどうなるんですか?」
と仲間がたずねる。
「ランダムに地球に送られるんだよ。それは愛し合う夫婦のところではないかもしれない。」
なんで選べるのにわざわざそんなことを?自分から不幸になるんですか?と様々な質問が飛び交う。
老師は深く目をつぶってひとつ息をつく。
不幸か…。
それはどうかな、と一言。
「どれだけ愛し合う夫婦の元を選んでも、お母さんがうまくお前たちをお腹で育てられずここへ戻ってきてしまう場合もある。愛し合う夫婦の元へ行ったはずが、後に仲の悪い夫婦になってしまう場合もある。お前たち自身が重い病気と向き合うことになるかもしれない。なにが幸せだろうかな。」
皆がざわざわとする。
期待が少しずつ不安の色へと変わる。
老師はなだめるように笑う。
「だから大切なのはお前たちが、人を信じる心と……、この星の名前の通りアガペーつまり無償の愛を強く持ち続けることだ。わしからお前たちに約束できることがある。もしかしたらお前たちを望まない親のところに産まれることもある。ただ、お前たちはどこかで必ず必要とされ必ず愛される。」