なぜ潮風はこんなにも
気持ち良いのだろう?


亜美はそう思いながら
海を見つめていた。


海は夜の闇の中
軟体動物のようなうねりを


見せている。


ベイエリアのレストラン。
海に面したテラス席。


海の上に浮かぶ客船の光が
ちらほらと見える。


「ちょっと酔っ払っちゃった」


亜美はほんのり赤い顔をして
そう言った。


時刻は現在21時。


金曜の夜はまだまだ
これからだ。


亜美はとろんとした目を
目の前に座る男性に向けた。


俊介だ。


亜美は約束通り
俊介とレストランで


デートをしていたのだ。


「俊介さん。今夜は
ありがとうございます」


そう言った亜美は
少し目を伏せた。


「美里がいなくなってから
ヘビーな気持ちが続いていたので

ほんと今夜はすっきりしました」


亜美の言葉に美里の行方を
いやというほど知っている俊介は


無言で笑う。