2016年1月―。
学校も始まり、ようやく正月ボケも消えてきた下旬頃。村上 萌は友人の後藤 美咲、鈴木 里香の3人と高校からの帰り道を話しながら歩いていた。少し屈んだだけで下着が見えてしまうのではないか、と思わせるほど短い彼女達のミニスカートは、寒さが厳しいこの時期には実に似つかわしくない恰好であった。見てる者まで寒々しい思いにさせる。橙色に輝く夕陽が彼女達の背後にもう1人の彼女達を、まるで影絵のように描き出している。
「そういえば、里香。今度のバレンタインにチョコ渡すの?」
萌が思い出したように里香へ問いかける。
「だ、誰によ」
「貴志君によ。私達が知らないとでも思ったの?」
「好きなんでしょ?貴志君のこと」
美咲も萌に加勢した。里香は動揺を隠せないまま、応戦している。しかし、多勢に無勢だ。美咲も萌も悪戯っぽい笑みを浮かべながら里香の返答を待っている。
「す、好きなわけないじゃん。あんな根暗のこと」
「その割には休憩時間に2人で楽しそうに話してんじゃん。まるでカップルみたいだったよ」
美咲が里香をさらに追い詰める。追い詰められた里香の頬は少し赤らんでいた。
「あ、あれは根暗をからかいに行ってただけで―」
「分かる分かる。本当は好きなんだけど、いざ本人を目の前にすると素直になれないっていうアレだよね。分かるよ、里香の気持ち」
「もう!2人共いじわるなんだから。知らない!」
 里香の恋バナに花を咲かせながら、3人はいつもの帰り道を歩いていた。そして、十字路に差し掛かった。そこで三人は足を止めた。