「一度、佐奈の家に行こう」


リドとアキとの共同生活が始まって、初めての土曜日の朝。

アキは何の前置きもなく、突然そんなことを言い出した。


「え?うち?」


急な発言に驚きを隠せない。

確かにここで暮らし始めてから自分の家に帰ってはいないし、帰りたいなあと思うけれど。


「でも、帰ってもいいの?リドのことがあるんだよ?」


リドがいるから、あたしとアキはこんな生活をするはめになった。

そして原因のリドのことは何にも解決していない。リドが一方的に結んできた「契約」もそのままだ。


「でも佐奈、帰りたいんでしょ?」


…まっすぐな目が、あたしを見つめるから。

心臓が変な音をたて始めた。


「アキは、エスパーか」


あたしがついさっき考えていたことが、どうして分かるの。

まるで心が見透かされているみたいだ。


「いや、違うけど」

「知ってるけどね!」


アキが真面目な顔をして答えるから、調子が狂う。

いや、アキが冗談を言い始めたら本格的にまずいと思う。

アキが冗談言うなんて、今までにない。そんなこと言ったらその翌日はきっと夏でも雪が降る。


「寂しそうな顔、してるから」


目を逸らしたアキに、あたしは目を見開いた。


そんな顔で、そんなこと言うなんて、やっぱりアキはずるい。ずるいけど、明日は雪が降るかもしれない。