昼休み、あたしはアキに転校生のことについて話そうと呼び止めた。

するとアキもちょうどあたしに話があったようで、あたし達は人気のない社会科資料室の前まで来ていた。


「リドが来たね」


あたしが話をするより先に、アキがそう切り出した。


「アキ、やっぱり気づいてたんだ」


そりゃあね、とため息を吐きながら、「それよりこれから対処法を考えなきゃ」とアキは言った。


「リドはここに来た理由を暇つぶしだって言ってた」


あたしがそうリドの言葉を伝えると、「そんなところだと思った」とアキは溜め息を吐いた。


「問題は、その『暇つぶし』のためにあいつが事件を引き起こさないこと、それから周りの人が巻き込まれないようにすることだね」


あたしは頷いた。

リドは学校で何か事件を引き起こさないことも、生徒を巻き込まないことも、何も否定をしなかった。ということは、あいつが何か厄介事を引き起こす可能性が十分にある。


「そのために、佐奈にひとつ頼みたいことがあるんだ」


アキは改まってそんなことを言った。


「あたしに?」


アキは頷くと、言いにくそうに「あのね」と下を向いた。


言いにくそうにしているのはきっと、本当はあたしにしてほしくないことを言うからだ。

いつだってアキの無表情がなくなるのは、身内に危険が及ぶときだから。

本当、アキは優しい。

いつもあたしを馬鹿にするようなことを言うけれど、本当は誰より優しい。


「いいよ、何でも言って」


あたしはアキの手を握った。驚いたようにあたしを見たアキはすごく情けない顔をしていた。