留衣と夢羽が店を出た後、あたしはすぐに閉店の看板を表に出した。


時刻は9時前で、本当の閉店までにはまだ1時間以上ある。


あたしはそのままエプロンをカウンターへ投げると、隠し扉から解体部屋へと移動した。


解体部屋では河田さんが丁度『お客様』を解体している最中で、あたしはそっとベッドに近づいた。


随分腐敗が進んでいる『お客様』なのか、ひどい悪臭がしている。


「おや、可愛いお嬢さんだね」


ベッドに寝転がっている『お客様』と目が合い、あたしはニコッと微笑んだ。


魂が完全に抜けてしまうまでは『お客様』は『お客様』として接しなければいけない。


「モコちゃんか。コーヒー豆のストックを取りに来たのか?」


『お客様』の右足をノコギリで切断していた河田さんが顔を上げ、そう聞いて来た。


あたしは左右に首をふる。


勝手に閉店させて来たなんてバレたら、いくら河田さんでも怒るだろう。


「さっきのお客さん、友達だったんだろ?」


無言のままで立っているあたしへ向けて、河田さんはそう言った。


ハッとして顔を上げると、河田さんの視線の先には小さなモニターがついていた。


その画面には『ロマン』の様子が映し出されている。