おしゃれな高層ビルの最上階、豪華なシャンデリアが飾られたエントランスを抜けると、きらびやかなバーカウンターが迎えてくれる。



窓から見える景色は、漆黒のビロードの上にちりばめられた宝石箱のようだった。



店の中に、一歩中に足を踏み入れると、東京の夜景の中にふわっと浮かんでるみたい。



2、3日前、井上さんから急にメールが来た。

二次会の会場の下見に行くから、そのうち連絡すると書かれた、一方的な内容だった。




そうして連れてこられた場所は、まるで夢の中にいるみたい。


家具や照明も、夢の中にいる。そういった気分に浸れるように演出されている。

暗すぎず、外の夜景が引き立つように、低い位置に照明が置かれている。



家具もゆったり配置されていて、フロア全体がくつろげる気持ちのいい空間に感じられる。

井上さんが自慢げに言う。

「普段とは違う、非日常の空間。雰囲気は大事だな。あいつがいいって言ってた店より、数百倍いいだろう?」

井上さん自体も、十分に、非日常ですけど。こんな人、普通周りにいないもの。


「ええ、はい。そうですね」


竜也が気に入ってた店とは違って、こちらは会員制だ。

だから、井上さんと一緒でなければ入ることができない。

客層も冷やかし客のように、この場にふさわしくない客も来ない。


前の店も、悪くないけど。

こういう時は、公平に意見をいいたい。どっちかの肩を持つのではなく。


井上さんは、長い脚をきれいに組んで、ゆったりとしたソファーシートにもたれてくつろいでいる。

まるで、自分の家にいるみたいに落ち着いている。


私たちの横は、壁一面の広い窓。

窓は、全部ガラスになっていて、夜景の中から浮かび上がる東京タワーや、六本木ヒルズが見える。


私と井上さんは、他のカップルの客と同じように、窓際のソファシートで夜景と食事を楽しもうとしているところだ。

出かけると連絡が来たのは、今日の昼だった。

本当に、昼までは、なにも連絡が来なかった。だから、今日は何も言って来ないだろうと、ランチの時に、久美子と約束した。


『付き合え』ってメールが、届いたのは、オフィスに戻って、社内メールを確認した時。

今日の夜は、久美子と食事をする約束をしてしまったから行けませんと、直ぐに返信した。

『先約が……』って断ったんだけど。

井上さんは、『社内の人間なら、断っても問題ない。大丈夫だ』とのたまった。
人の意見を聞く人ではない。