次の日、菜穂はいつもの電車に乗って来なかった。
気まずいのも無理はないと、私も深呼吸をして、いつもの車両のいつもの場所に1人で立った。
学校へ着き教室へ入ると、菜穂はすでに登校していた。
そして私が席に着こうとすると
「綾〜!おはよ〜!」
といつも以上の笑顔で手を振ってくる。
その左手には大きなリストバンド。
まるで見せつけて睨むかのような目は、私にだけわかるものだった。
そして
「友里たちがみんなAコースに行くんだって。だから私もAコース行くことにしたんだっ。綾はBコースだよね?離れちゃうなんで残念だなー。」
菜穂はわざわざAコースに進むメンバーで顔を寄せて笑った。
期待通りに応えなかった私に復讐でもしようとしているのか、あまりにそれはわかりやすかった。
菜穂を嫌いになった訳ではないし、あえて避けた訳ではないけれど、クラス替えをすると自然と友情も消滅した感じとなり、それ以来同じ電車で通学することもなかった。
それでもお揃いのマフラーを巻いて二人乗りした自転車はいい思い出で、離れて冷静になってから菜穂に感じていた恐怖が消え、菜穂の抱く孤独と闇への心配に変わったことは、今となっては伝える術もない。