ケータイ小説 野いちご

そして俺は、君の笑顔に恋をする

工藤尋匡という男






空が茜色に染まる夕暮れ。


帰りのホームルームが終わり、カバンを肩にかけて黒瀬凪咲は自分の席から立ち上がる。


ふと、窓の外に目をやると、校門からすこし離れた場所に目立たないようにして立つ、スーツの男が目に入った。


彼は、工藤尋匡。


FBIからやって来た警視庁刑事部捜査一課の警部で、今は黒瀬の専属警護をしてる。


背は高く、軽く見積もっても180はあるんじゃないだろうか。


少し癖のある茶髪をワックスでかため、後ろに流している。


中性的な顔立ちだが、各パーツそれぞれがしっかりしている為、それなりにかっこよく見える。


まあ、そんなことはどうでもいい。




警護が始まって一ヶ月ちょっとが過ぎた。


毎日大変だろうに、工藤は変わらず警護をしてくれている。



(あ、欠伸した…)


朝早くから夜十二時過ぎまで、つきっきりなのだから無理もない。


交代したらいいのに、と内心で思っていてもなかなか口に出せないのは、彼の警護が今まで一番安心できるからだろうか。


今まで黒瀬凪咲を警護してきた警官たちは十人以上。


そのどれも不愉快極まりないものばかりだった。


セクハラ紛いのことをしてくる奴もいたし、警護しない奴もいた。


警官や刑事なんて所詮こんなもんだと、半ば呆れと諦めを感じていた時、彼がやってきた。


雪村さんと佐久間おじさんが直々に頼み、わざわざアメリカのFBIから連れてこられたその男が、この工藤尋匡。


おまけに、元は警視庁の警備部警護課でSPとして働いていたという経歴の持ち主。


輝かしすぎる経歴に、改ざんを疑ったが本当らしい。


雪村さんからも聞いた。



『いやー最初から彼に頼むつもりだったんだがね、FBIが彼を手放すのをかなり渋ったんで、説得するのに時間がかかったんだよ。結果、条件付きで一時的に帰ってきてもらったわけ』



と、何とも言い難い、素晴らしい経歴が本物という事が分かったわけである。



(…たしかに、上手いもんなぁ警護)



そう、何のかんの言いつつも、工藤尋匡は警護が上手かった。


いつの間にか彼の存在を忘れてしまうほど、工藤は自身の存在を消す。


しかし、ふとした時には必ず傍にいる。


他人に怪しまれない距離感と、警護できる距離感のちょうど間を彼は歩いているのだ。


けしてへこたれる事もなく、手を抜くこともなく真面目に取組んでいる。


すごいな、と感心してしまうことがあるほど、彼の警護は自然で抜け目なく、完璧だった。



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