【12月下旬~冬休み~】


史也に拾われる形で末端のクラスに入学することが出来た俺は、
その日から真面目にエレクトーンと向き合い続ける。


前以上にエレクトーンにどっぷりと浸かり続ける日々を歩き始めた俺は、
ゲームセンターでの集会も顔を出さなくなった。

K中学と自宅の直行・直帰の繰り返し。

そして電車で隣町の大田音楽教室に顔を出して、
史也のマンションで更に個人レッスンをして貰う毎日だった。


景以外の不良仲間には、エレクトーンに夢中になりだしたとバレて
気味悪がれたり、からかわれたりと、居心地の悪い時間が過ぎたけど
どんな喧嘩の時も、指だけは意識的に守るようになった。

指も足も演奏の為には怪我するわけには行かない。



必死にエレクトーンを向き合い続ける俺に、
景だけはいつも「頑張れよ。奏音ちゃんに会えるといいな。お前凄いよ、ホントに入学しちまってさ」なんて
俺の努力を一番近くで受け止めてくれた。


そんな日々を過ごし続けて、最初の進級試験の合格発表の日。



俺はいつものように大田音楽教室のドアを潜った。



年の瀬、年末、冬休み。


おまけに、クリスマスって言うこの日も俺は、
アイツの指示通り、奏音を追いかけたいのを我慢して
この場所へと姿を見せてた。



「おはよう、泉貴くん。
 お待ちかねの結果表よ」


そう言って、封筒を俺に手渡すのは美佳先生。

恐る恐る、その封筒を破って中のカードを確認する。








合格


泉貴秋弦を1月のレッスンより、
上級クラスの生徒とする。







そのカードを確認して、
思わずガッツポーズ。




そんな俺の行動に美佳先生はクスクスと笑いながら
話しかける。



「史也くんのレッスンは大変でしょう?

 でも見えないところで、
 史也くんもずっと努力してきた。

 泉貴くんの演奏も最初の頃とは見違えてきたわ」



そう言うと、美佳先生は入り口のドアから姿を見せた
大田先生に呼ばれて二人でレッスン室に入っていった。



レッスン時間前。



まだ誰も来ていない教室のソファーにどっしりと座りながら、
俺は音楽教室の試験を受けた日から今日までの間を思い返してた。


 
*


大田音楽教室の入学試験。


クラス分けの試験だけだろうと、
余裕ながらに受験しようとした演奏だったけど、
教室に入った途端に、そんな気持ちは吹っ飛んだ。


演奏を試みるもズタボロで試験結果なんて、
聞くまでもなかった。



不合格って言われかけたその時、俺を助けてくれたのは、
ガキの頃から奏音が、キャーキャー言ってるあの男。


【はすいふみや】が蓮井史也って事がわかった。


そしてアイツによって、最下位クラスから入学が許された俺。


だけど……俺にとって、びっくりしたのは、
蓮井史也、直々に俺のレッスンを教室の合間に
見てくれることになったってことだ。



けど胸中は複雑だぜ。



なんせアイツは奏音の憧れの存在。


奏音の心を虜にしやがるアイツは、
俺にとっては恋敵だ。




けど物は考えようだ。



アイツのテクニックを吸収して俺はアイツを越えるっ!!
越えて奏音を振り向かせてやるんだっ!!


ってなわけで、俺は今に至る。