11月下旬。

9月に入学が叶った音楽教室。

だけど、実力の差がありすぎて
史也君と同じクラスにはなれなかった。

史也君は、自分で音色を組み立てて
リズムも打ち込んで演奏プログラムを生み出していく存在。

私なんて既存の完成されたデーターを借りて演奏しているだけだもん。


あの教室で本格的なレッスンが始まって
2か月が過ぎようとしてる。


藤宮学院の授業の難しさと中間テスト。

学生ならではの予定に苦しめられながら、
それでも教室だけは休みたくなくて必死に睡眠時間を削り続けた。


史也君は愚か教室の皆の実力の差も思い知らされた後だもの。



「奏音、早くしなさい。
 学校に遅れるわよ」



何時もの様にお母さんの声が私の朝を告げる。


ベッドサイドには何時の間にか寝落ちしてそのままになってしまった
エレクトーンの教室の課題が私の下敷きになってた。


あぁ、くちゃくちゃだ……やっちゃったよー。



眠りながら、夢うつつにメインフレーズに、コードを書きこんだ楽譜。

コードの近くには使いたい音色。
メモリの番号。

そして数多くあるリズムパターン。


同じ楽譜の旋律でも、リズムが変わると全くイメージが変わってしまう。

音色とリズムが生み出す、
その曲の存在感って大きいから。


ベッドから這い出して、制服に着替えるとまたエレクトーンの電源を入れて
教室のテキストの楽譜を演奏する。



とりあえず、コード進行も大丈夫。
音とリズムの違和感もないから、これで課題はクリアかな。


その課題は、そのまま教室用の鞄に突っ込んで
耳で覚えた「煌めきの彼方へ」のフレーズを右手でポロポロと奏でる。


今は……まだ辿りつけなくても、
ちゃんと私は、近づきたい。



あの日、私の未来【ゆめ】をくれた史也君にっ。



「奏音、本当に何時までグズグズしてるの?
 由美花ちゃんが駅で待ってるんじゃないの?

 お父さん、今日は早出の日だからもういないわよ」


「えぇー。

 お父さん居ないなら早く言ってよ。
 今日も車で送って貰えると思ってたから」


慌てて部屋から荷物を持って飛び出して、


「ごめん。朝食いらない。
 食べる時間なくなった」

っと昼ご飯の弁当だけ、掴み取って玄関から飛び出した。


寒さを感じる道程を鞄を持って駅まで全力疾走。
携帯から、由美花に今家を出たことを告げる。



あぁ、ちゃんとお父さんの仕事の出勤時間
確認しておけばよかった。



脇腹が痛くなってくるのを感じながら
それでも必死に駅へと向かう速度を緩めない。


鞄にぶら下げてるパスをピッと改札にかざして
プラットホームに駆け込むと、由美花が何時もの様に、
向かい側の乗り場に手を振ってた。




「由美花、おはよう。
 間に合ったぁー」



由美花の体を借りて自分自身を支えると、
呼吸を整えながらそのまま地面へ座り込む。



「おはよう。
 奏音、そんなに走らなくても遅れたらフォローしておく予定だったのに」

「だっ……大丈夫……。
 でっ、でも……疲れたぁー」


そう言うと由美花は私から離れて、
ホームの自販機で飲み物を調達して戻って来てくれた。


差し出されたスポーツドリンクを掴み取って、
一気に飲み干した頃、由美花が楽しそうに笑いながら
自分の携帯を私の方に差し出す。