───暗い。


木が生い茂った山の中。


ひたすら走る。


いつもなら暗くて怖いはずの道だって、
今回ばかりは安心さえした。

もう、どうにかなってしまいたい。


走り続けて、居なくなれたらどんなに幸せか。



「───キャ!」



足元の出っ張りに引っかかって転んだ。


涙が落ちた。


捻った足首より、心が痛かった。




「知らなかったな...人にひどいこと言うと、自分に返ってくるんだ...」


まさに諸刃の剣だ。




止めどなく流れる涙に視界が曇る。



「何で…あんなこと言っちゃったの…?」




私は、昇くんを泣かせてしまった。




もう、あの兄弟に合わせる顔がない。





「…お父さん…」





唯一、血の繋がったその人を呼んでみる。






お父さんは私を探しに来てくれるだろうか。








───いつだって…来てくれなかったでしょう…?





幼い、あの日の私が恨めしそうに呟く。





母親の浮気相手に蹴られて、殴られて、たくさん泣いて。





お父さんに助けを求めようとも思ったけれど。





『もしもし…お父さん…?』



『さゆりか?どうした?』



『お父さん…あのね…』



『あ…ごめんさゆり、今忙しくて、今度にしてくれるかい?』



『…うん…分かった…』





私の『助けて』という叫びは電話越しには聞こえなかった。







私はまるで一人ぼっちのように感じた。







だから母親にすがったんだ。






『私を捨てないで』と。







「…期待するだけ…無駄…」







私は涙を拭き取って、また歩きだした。






行き先なんてないけど。







それでも私は進む。








一人で歩いていくと決めたのは私なのだから。