両親のヨーロッパ旅行が決まってからは家の中は慌ただしくなった。


一か月も家を留守にしたことなんてないから、近くの親戚の家に電話をかけて時々家の様子を見に来るように頼んだりしている。


あたしは1人でも大丈夫だと言ったのだけれど、何が起こるかわからないからとお母さんに説得されてしまった。


それから一か月分のご飯の材料やインスタント食品を買い込んだため、冷蔵庫の中はパンパンだ。


「買い物くらい自分で行くのに」


そう言っても、やはり両親はあたしの事が心配なようで、風邪薬や痛み止めまで買ってようやく安心した。


「毎日ご飯はちゃんと食べなさいよ」


大きな荷物を持ったお母さんが玄関先でそう言った。


「わかってるって」


あたしももう高校2年生だ。


お腹が減ったら自分で食べるものくらい準備できる。


「なにかあったら吉田おばちゃんに連絡しなさい。旅行に行くことは伝えてあるから」


「わかってるって」


「出かける時と寝る時は必ず戸締りをすること」


「はいはい」


「あと、火の扱いには気を付けて……」


「早くしないとタクシー待ってるよ!」


あたしはそう言い、お母さんを強引に玄関の外へと押しやった。