「ふふーん、ふふんふーん~」

オレはご機嫌でアジトへ向かう廊下を歩いていた~。大統領官邸は、今日バレンタインも平常運転、なんの面白みもないが、やっぱり男なら、今日は浮き立つ日でもある~。

アジトでオレがチョコをもらえる可能性があるのは、何人もいない~。とはいえ、どことなくうきうきするイベントであることは確実だ~。もしかしたら、違う部署の可愛い子からチョコと告白がセットでついてくるかもしれないしな~。

「はいっ、おはよーございます~!」

オレは勢いよくアジトのドアを開けた~。出勤しているメンバーたちは、ちらっとオレの顔を見てから、軽く挨拶して、仕事にとりかかる~。

もう10時。完璧な遅刻だ~。だってさ~、昨日はファンのメタルバンドのライブ参戦に、その後カラオケでそのグループの歌を歌って、少々寝不足なんだよ~。出勤しただけすごいと思ってくれよ~。

「セルジュ」

レイ先輩が鬼の形相で近づいてきた~

「あんた、何回目の遅刻かわかってるの」

「いやいや、来ただけましだと思ってくださいよ~。ああ、喉が痛い~」

「全くもう」

レイ先輩は、ジャケットを脱いで椅子の背もたれにかけているオレを尻目に、そっと何かを置いて行った~。

「ロシアンチョコ」

最近はやりの駄菓子だ。当たりはもう一個チョコがもらえ、外れるとまずいチョコがお待ちかね、ということだ~。駄菓子……駄菓子ねえ~。全く恋愛感情なしってことね~。色気もないな、と思ったのは内緒だ~。

乱雑なデスクの上には、チョコが三つ載っている~。一つは、メッセージカードに「パウル」と書かれ、もう一つはどう見ても古風な東の国の味付けの「抹茶」チョコで、これはロッタ、もう一つ……誰だ~?オレは、とりあえず残り二つのチョコをありがた迷惑で引き出しに突っ込み、最後のチョコをしげしげと見つめた。それは、どうやら手作りのようだった。

「私が父上と一緒に作った。日ごろの感謝を込めている。よかったら食べてくれ。                               ルドルフ」

ルドルフボスの手作りチョコか~。それにしても、シュテファンボスは幽霊だぞ~。どうやって一緒に作ったんだ~?まあ、無事に親子の縁が結ばれつつあるようで、よかったな~。

オレは、とりあえず喉の痛みを消そうと「ロシアンチョコ」を手にした~。包み紙をむくと、甘そうなにおいがする~。口に放り込んで、しばらく噛む~。



……じんわりと、「ワサビ」の味がしてきた~!

「み、水っ!水っ!」

「あんた、口癖消えてるわよ」

レイ先輩がにやっと笑いながら、水を置いてくれた~。用意が早いな~。これは、もしや~……。

「先輩、謀りましたね~」

「さあ、なんのことかしら」

きれいな魔性の笑顔で、レイ先輩はデスクワークに戻った~。水を飲んで一息ついて、包装紙を見ると、

「日ごろのうっぷんを晴らすため!特別な全てハズレのワサビチョコ!」

と書いてあった~。どれだけオレへの不満がたまってるんだよ~。それに、どれもハズレなんて、ロシアンのロの字もなくなってるぞ~?

今日の業務も全て終わって、オレが獲得したチョコは、パウル、ロッタ、ルドルフボス、レイ先輩の4個だけ~。今年もか~。いつになったら、理想のお姉ちゃんに告白されるのかな~。

遅刻したので残業で、外にメシを買いに行ったついでに、オレは小さな個包装のチョコを1個買った~。自分へのバレンタインチョコだ~。

悲しいな~。そんなことを考えながら、オレはアジトへ戻っていった~。

(了)