もう終わったことなのだとさすらう生活を送る中、私は1つの瓦版を目にする。
“月映ゆる 牛小屋の香の 十五夜に
焦がれしすすき なおも候う”
十五夜に会ったあなたを今でもここで待っているという歌。
隆様は居場所のわからない私をお探しになり、わざわざ瓦版に載せ世間を騒がすようなことをなさった。
胸がざわつき、落ち着きをなくす。
街では実田隆成様が町人と恋路に迷うなど…と、困惑と批判の声が行き交っていた。
直接お会いして、すぐにでもなかったことにしていただかなくてはならない。
それに、この恋歌のような詠み方も私の中では腑に落ちていなかった。
隆様はただ、ご慈悲をかけてくださったにすぎないのだから。
その日、夜が更けてから城の塀まで行くと、待ち構えたかのように隆様は立っておられた。
私の手を取ると、さぁこっちと物陰に引っ張られる。
手荒な探し方をしたものだから、付き人まで目くじらを立てて、私はまるで囚人だよと、隆様は愉快そうに笑う。
こんな危機的な状況でなぜ笑っていられるのか、なぜあんな真似をしたのか、私が尋ねると隆様はきょとんとされ、
「おかげでお梅を見つけられたのだから、万事うまくいっているよ。思った通りだ。」
と、あの時のように私を抱きしめる。
最後に会ってから、もう2回目の新月を迎えようとしていた。
堪えていたはずの淋しさがどっと溢れる。
泣かせるつもりはなかったが、初めて会った日からきっと泣きたいほど苦しかったのだろうと、私の胸の内を読むように隆様はさらに強く抱きしめてくださる。
初めからそうすればよかったのだよと、私の頭を撫でる隆様に身を委ねると、隆様のトクントクンという規則的な鼓動と穏やかな吐息が聞こえ、心が穏やかになった。
すすと涙で汚れた私の頬を、隆様は惜しむ様子もなく纏った紫の衣で拭ってくださる。
「私があなたを守ろう」
そうおっしゃった言葉が何度も頭を駆け巡る。
私はもうその優しさに負け、抵抗すべきことも忘れていた。