それから私達は、一切言葉を交わさなくなった。

坂瀬くんが私の方を見ているのを感じる。
でも、私は坂瀬くんの方を見られないでいた。

青柳颯太がいてもいなくても、今私は坂瀬くんと話せないだろう。

坂瀬くんが無理をして私に合わせてくれているのを知ってしまえば、今までのように坂瀬くんに色々なものを見せることが出来ない。

それは、坂瀬くんに近付けないことを表していた。
私達の繋がりは、自分達の好きなもの、ただそれだけだった。

たとえ今坂瀬くんに恋をしていたことに気づいていたとしても、私達はそれほど距離を詰められてはいなかったのだ。


「日和ちゃん?おーい、日和ちゃん!」

「えっ、あ、ごめん、なんだった?」


翡翠の言葉を、自然と聞き流していた。


「なんか元気ない?」

「えっ...そうかな」

「うん。なんかあったの?」

「...別に、何もないよ」


翡翠にも、言えなかった。

恋をしてしまったという事実が恥ずかしかったのかもしれない。
坂瀬くんと距離が出来たことを後ろめたかったのかもしれない。

今は、誰にも言いたくなかった。