1時限目の授業が始まる。

私はボーッと黒板を見つめ、それから坂瀬くんの方をなんとなく見た。

坂瀬くんは黒板に目を向けることなく、視線を下げている。
坂瀬くんの手元を見ると、そこには分厚い本があった。

真面目な視線、時折少し変わる表情。
その本に夢中になっていることが分かった。

坂瀬くんが夢中になる本。
少し、興味が湧く。

そして、改めて思った。
坂瀬くんは、本が好きなのだと。


「遊佐。おい遊佐」

「え、あ、はい」

「授業中にボーッとするんじゃない」

「えっ...」


それを言うなら坂瀬くんの方が...。

そう思って坂瀬くんの方を見ると、坂瀬くんは未だ本に夢中だった。

邪魔したくないと思った。


「...すみません」

「ったく、お前はいつもそうだぞ?」

「はい」


先生は珍しそうに私を見た。

注意されればいつも不機嫌な顔を向けていたからだろう。

でも今は、先生の目を坂瀬くんに向けたくなくて、大人しく素直に言うことを聞いた。

あとで、坂瀬くんに教えてもらおう。

あの本の題名を。