5時限目の授業は国語。

漢文の授業で、現存最古の仮名作り物語と言われている竹取物語は、だいたいのあらすじは授業を聞かなくても知っている。


「『今はとて 天の羽衣着る折ぞ 君をあはれと思ひ出でける』これはかぐや姫が帝に贈った歌だ」


先生がかぐや姫が詠んだ歌を説明していく。

皆あまり興味を示さない。

それは私も一緒で、起きてはいるものの興味があるわけでもない。
面倒だなぁ、と思いながら、ぼんやりと起きているだけ。

翡翠の方を見ると、相変わらず真面目に板書をしている。

そして、坂瀬くんの方を見てみた。
坂瀬くんは遠く何かを見るようにぼーっと黒板を見ていた。
でも、板書をする気配はない。


「坂瀬、ここの現代語訳を答えろ」


そして、先生が坂瀬くんに当てた。

坂瀬くんはビックリした、と言うような表情をして、「えぇっと...」と考え始める。


「今はもう、天の羽衣を着る時になって、あなたのことをしみじみと懐かしく思い出すことでございます...ですかね?」


坂瀬くんの声は顔とキャラに比例して少し高い。
そして、透き通るような声だ、と思った。

かぐや姫の歌と坂瀬くんの声が、合っているような気さえした。


「正解だ。坂瀬はぼーっとしすぎだぞ」

「あはは、すみません」

「さすが天ちゃん!」

「えぇっ、それどういう意味ー?」


教室が笑いに包まれる。
先生でさえ、笑っている。

坂瀬くんの纏う空気は、なぜか人を和ませる。
そして、坂瀬くんだからこそ、許してあげようって皆が思える。


なんとなく、少しだけ。

坂瀬くんという人に、興味が湧いた。