鈴木セシルが、初めて横浜を訪れたのは、十歳の夏休みのことだった。

瀬戸内海の小さな島である、直島育ちのセシルにとって、夏休みのほとんどを過ごす東京は、第二のふるさとのようなものだ。

実際、セシルは、母親の実家である東京で生まれた。
だから、東京が出身地と言ってもいいのだが、生まれてすぐに父親の実家である直島に来たので、小さいころの記憶もない東京を「出身地」と言うことに、なんとなく気恥ずかしさを感じていた。

だから、第二のふるさとくらいがちょうどいい。