あれから、僕は数分にも及ぶ甘いキスをされたあと、力が入らなくてしばらく折崎さんに抱きしめられていた。
「僕にキスをしてきたときの顔も、今の顔も…妖艶で、いいね…もっとみたくなる」
そう言われて驚いて、逃げようとしたって身体に力が入らないもんだから、どうしようもなくて
僕はそのまま、平常に戻るまで折崎さんに抱きしめられたままで、
だけど戻った瞬間、半ば逃げるように、折崎さん家から飛び出していた。
今の時系列は、その3日後。
僕は一昨々日のことを忘れようと、バイトをいつもより多く入れて、毎日深夜まで働いてる。
翌日の隆弘との約束は、ちゃんと遊んだけれどやっぱりどこかうわの空で、宙に浮いているような感覚が僕の神経を支配している感じがしていた。
だって……だって!
あ、あんな…キスは…初めてだったから。
とにかく、何かをしてないと
お互いの唇が擦れ合う度に生じる温度、隙間から漏れる荒い吐息、口内でディープに絡み合う滑らかな舌の感触と音。
どれも鮮明に焼き付いていて、離れなくて。
すぐに思い出してしまうから、辛かった。
身体がふわっとするんだ。
彼のぬくもりを思い出す度に、くすぐったくてつい身をよじらせてしまう。
だからこうして、バイトして気を紛らわせていた。
休憩時間や、客足が遠のいて暇な時は精算をしたり賞味期限切れの食品を確認したり、掃除をしたり。
とにかく、気を紛らわせるためにいろんなことをした。