その日の夜は熱が出た。
風邪ひとつ引かない私が、熱を出すのは珍しい事である。
怪我のせいなのか何なのかそれは分からないけれど、久しぶりの体温の上昇に思った以上に堪えた。
身体がだるくて動かないし、頭も常にぼおっとしている状態で、ベッドで久々の熱に苦しむ。

そんな私を岡田さんがおでこを冷やしてくれたり、おかゆを食べさせてくれたり、甲斐甲斐しく世話をしてくれた。
そして熱で寒がる私を抱きしめて温めてくれて。
ずっと、「大丈夫だ、俺が付いているから」って、そう耳もとで言ってくれる。

・・・幸せだった。
幸せすぎて、知らずに涙が零れていた。
人の温もりの大切さを、その時に改めて感じた。



次の朝、岡田さんの看病のお陰か熱はすっかり下がって身体も軽くなっていて、心配してその日も休もうとする岡田さんを、「大丈夫だから」と必死に説得してなんとか会社に行かせた。

そして昼頃に自分の家へ戻る。
本当はそのまま自分の家で静養しようかとも思ったけれど、きっと(いや絶対)岡田さんに連れ戻されるので、当分の着替えと必要なものだけ持って、また岡田さんの家に帰った。

まだ自分の答えは出ていない。
仕事も諦められない。まだ覚悟が出来ない。

だけど、今は一緒にいたいと、思う。
そう思うのは怪我のせいなのかもしれない。
ひとりになるのがとても不安だった。

右手が使えないから身の回りの事が出来ないとか、そういう不安ではなく。
それは気持ちの問題で。
このままひとりでずっといたら、自分が押しつぶされてしまいそうで。
だから、岡田さんの言葉に甘える事にした。

この右手が使えるようになったら、気持ちが変わるかもしれないし、もしかしたら変わらないかもしれない。
でも、今はこの傷を直していくことだけ考えるようにしようと、そう思った。