「聞いたわよ~真壁さん。あのKIZUKIの社員さんと付き合っているんですって?」

お昼休み、工場の食堂で。
パートのおばちゃんに唐突にそう話しかけられ、私は思わずカップラーメンの汁を噴き出しそうになる。
なんとか堪えたものの、今度は器官に入ってしまい咽る。

さすがおばちゃんである。情報網は侮れない。
先週の事なのにもうおばちゃんの耳にまで入ってしまったのか。

「つ、付き合ってないですよ、それは嘘です」

「ええ?でも真壁さんが岡田さんの車に乗ってたのを見たって聞いたけど!」

「・・・誰ですか、それを見たって言ってた人は」

誰に見られていたのか。
で、誰がばらしたのか。

さすが年齢層が高いこの工場。
ほとんどが結婚し子供もある程度大きいから、みな落ち着いている。
だからそういった浮ついた話など、この工場にはあまりない訳で。

そんな中で私が男の人と、しかもここに来るメーカーの社員さんと一緒にいる所を見られたら、そりゃあ噂にもなるだろう。なんだかんだでそういうゴシップが大好きなんだ、ここの人達は。

だから嫌だったんだ。すぐ何か噂があると広まるから。
ましてやこのおばちゃんズは、噂をさらに膨らまして広げやがる。
お陰でいつの間にか付き合っている設定になっているじゃないか。

ああ、面倒臭いぞ、これは。