誰もいない教室に帰ってきた。

帰ってきた、という感覚が不思議だった。

電気が消えた教室は、出る時よりは少し薄暗く感じるけれど、日没まではまだ充分時間がある。


矢野くんが自分の席に荷物を置き、イスに座った。

マフラーを外す彼をぼんやりと眺めていると、なぜかじろりと睨まれる。


「なに突っ立ってんだよ。座んねーの?」

「え……っと。座るって、どこに」

「どこって、別にどこでもいいじゃん。作業すんだから、林の席でも座れば」


林の席、というのは矢野くんのひとつ前の男子の席だ。

言うやいなや、矢野くんはおもむろに席を立ち、林くんの机をくるりと後ろに向け、自分の机とくっつけた。


「ほら」


視線で「座れ」とうながされ、ゴクリと喉が鳴る。

向かい合わせで座るの?

矢野くんと真正面から向き合うの? わたしが?