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(もしかしたら、帰るのが少し遅くなるかも。でも買い物はしていくからね)>千奈

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いまは仕事中だろうお母さんにメッセージを送り、顔を上げる。

いつもなら授業が終わるとみんなだらけた雰囲気になり、教室の空気もゆるむところだけれど、今日はちがう。

矢野くん以外の全員が、緊張を隠しつつ彼の様子をうかがっている。


午後の授業が終わってすぐ、栄田くんが一番先に席を立った。

さっと周りを見回し強くうなずく。

矢野くんに言わせ隊、作戦開始だ。


「矢野! ちょっといい?」

「あ? なんだよ、栄田」


鞄に教科書類を詰めながら、顔も上げずに矢野くんが返事をする。

冷たく思えるけれど、これがいつもの彼だ。

男子にも女子にも、矢野くんは基本ぶっきらぼうな対応をする。