佐野くんの県大会の選抜試験の日。


その日に合わせて、あたしはもう一度25メートルのテストを受けさせてもらうように市川先生に頼んだ。


市川先生は初め不思議そうな顔をしていたけど、最後には快く了承してくれた。


あたしのことをよっぽど熱心な生徒だと思ってくれたみたいだ。


テストが始まる前、佐野くんがやってきて声を掛けてくれた。


「早瀬。頑張れよ」

あたしは佐野くんに笑いかけると、少し緊張しながらプールの中に身体を沈めた。


25メートル泳ぎきる。

それが佐野くんとの約束。


あたしは深呼吸すると、プールの壁に背中をつけて準備した。


「早瀬。もう始められるか?」

あたしはプールサイドの市川先生を見上げると、強く頷いた。


「笛が鳴ったら泳ぎ始めろよ」


そう言って、市川先生が首にぶら下げていた笛を咥える。