「早瀬!ストップストップ!!一回顔上げろ」

水中で壁を蹴って数メートルも進まないうちに、市川先生の大きな声が聞こえた。

水の中で必死に手足を動かしていたあたしは、息も絶え絶えになりながら水面で顔を上げる。

振り返ると、あたしはスタート地点からまだ2メートルも進んでいなかった。


「早瀬。もっと落ち着いて手足を動かせ。それじゃぁどれだけ頑張っても前に進まないぞ」

市川先生が呆れ顔であたしを見下ろす。


後ろから聞こえてくるのはさざ波にも似た同級生達の笑い声。

あたしは泣きそうになりながら頷くと、再び水に顔をつけた。

それからまためちゃくちゃに手足を動かす。

途中で何度もプールの底に足をつき、後ろから泳いでくる同級生に何度も横から追い抜かされ、そうしてやっとプールから這い上がることができたとき、あたしの心と体はクタクタだった。