ゆっくりと、雑居ビルの階段を上がる。

「我妻の野郎、何考えてんスかね」

革ジャンのポケットに手を突っ込んで、巽がぼやいた。

「鬼首が仮出所した直後の鬼首會総本部に単身乗り込むなんて、どうかしてる。幾ら刑事でも、単独で踏み込んだらどんな目に遭うか分かったもんじゃないってのに。それくらい、元マル暴ならわかるでしょ」

「我妻刑事には、相棒と呼べる刑事がいない。常に単独捜査を強いられているんだ。危険な現場にも、1人で乗り込むしかない」

倉本が言った。

「んな事言ったって、自業自得でしょ。奴の普段からの素行を考えりゃ、相棒になりたがらない奴ばかりなのも頷けるってもんだ」

返す巽。

「…彼には、無茶をやらずにはいられない理由があるんだ」

「我妻の娘さんがどうとか…って話スか」

倉本の言葉に、巽は呟く。