ビジネスホテルと言えば当然余計なものは置いていないし、旅館みたいにもうひとつ和室があるわけでもないし、基本的に室内が狭い。
人ひとりが歩けるくらいの隙間を開けて配置されている2つのベッドが、なんとも言えない距離感だ。


静かな部屋に入るやいなや、私はいそいそと窓際のベッドからシーツを剥ぎ取って、ベッド間の隙間の真ん中にそれを細長くして置いた。


「これでよし、と」


大した作業でもないのに額に汗をかいてしまった。
ようやく荷物を下ろした私に、啓さんが不思議そうに床に置かれている畳まれたシーツを眺めている。


「なんなのこれ」

「仕切りです。これから先、ここはまたがないようにしますから!啓さんのエリアには決して近づきませんからご安心を!!」

「…………普通逆だと思うんだけど……」

「はい?」

「ううん。なんでもない」


ダウンを脱いでゴロンとベッドに横になった啓さんは、天井を見つめてぼんやりしている。


私は買ってきた侍プリンを部屋の冷蔵庫に入れて、無音には耐えられないのでテレビをつけておいた。
ちょうどスポーツニュースで日本ハムが勝ったという情報を流していて、


「やっぱりあのあと勝ったんですね〜」


と、話しかけてみる。


「うん、そうだね」

「今日食べたスープカレー、写真撮るの忘れちゃいました。あと、つっこめしの写真も。失敗しちゃったな」

「また来ればいいんでない」

「せ、せっかくだから札幌ドームの前で記念写真撮れば良かったです!それも忘れちゃって」

「また来ればいいべさ」

「それからそれから……」

「深雪」


ペラペラしゃべり続ける私を見兼ねて、啓さんがムクッと起き上がってため息をつく。


「少し落ち着いて。一緒にいて嫌なのは分かるけど」

「えぇ!?い、いえいえ。決して嫌とかそういうことでは……」


むしろ逆なんですがね。
それは口には出せない危険なワードだけど。