カポーン。


と響くは、日本庭園に付き物の鹿威し。


丸い窓から見える美しい景色は1枚の絵のように美しい。


目の前に並べられた懐石料理はどれもこれも美しい盛り付け。


私、美波 恭華(29)が着ているのは、年齢からすると正直、イタイんじゃないかと思う、美しい絵柄の振り袖。


私の前に座る男は、黒髪を斜めにわけ、シルバーの細いフレームの眼鏡をかけた小さな顔。
眼鏡の下にあるのは少しつり上がった切れ長の綺麗な目。
左目の下には、妖艶な涙黒子。



うん。
綺麗な男だ。



そして、今この空間にある全てのものが美しい。


優雅な日曜だ。



………優雅?



イヤイヤイヤイヤ!!!



そんな呑気な話じゃないっ!!



「うふふ。では私達はこれで失礼しましょうか。」


「そうね。あぁ今からお式が楽しみですわ。」


「いやー本当に肩の荷が降りましたよ。どうです?この後、一緒にお酒でも。」



「ぜひ!本当にうちの気難しい馬鹿息子に恭華さんのようなしっかりした方が嫁いでくれるなんて、本当によかったです。」



アハハ。ウフフ。


と去っていくのは、スーツを着た恰幅のいい男性二人と、美しく着物を着こなした女性が二人。


私の両親と、この男の両親だ。



「ちょっ!!ちょっと待ってよ!!ねぇっ!!」


長時間の正座に脚が痺れて、立ち上がる事ができない私を、ハッと短く息を吐き馬鹿にしたように見る目の前の男。



「ちょっと!あんた!知ってたの!?ねぇっ!」


私は目の前の男に問いかけるも、男は聞こえてないふりをして、目の前の料理を食べている。


「ねぇってば!!聞こえてるの!?須賀っ!!」



「………うるさい。」



そう私の方をチラッと見ると男は、また料理をつまみだした。